手術を受けられる方へ

手術を受ける前にお読み下さい

 

乳がんの術式

大きく分けて二通りあります。
乳腺の一部分だけを切除する乳房部分切除術乳がんの大きさや広がりなどを考慮して乳腺すべてを切除摘出する乳房切除術です。
どちらにもメリットとデメリットがあり、根治性と整容性とのバランスを考慮して術式を選択する必要があります。
以前は、6割以上乳房温存手術が選択されていましたが、2013年の7月から人工乳房(シリコン)を用いた乳房再建が保険適用されたため、乳房切除を行なうと同時に乳房再建を希望される患者さんが増えてきています。

 

①乳房部分手術について

乳房部分手術は、乳がんが存在する部分から2-3 cm 離して (安全な領域を確保して) 腫瘍を切除します。
解像度の高いMRIなどを用いて乳がんの広がりを術前に検索しても、浸潤部分だけでなく乳管内進展病変 (非浸潤部分) が実際どこまで広がってるかを把握するのは困難な場合があります。
つまり、どの範囲まで病変が存在するかは神のみぞ知る世界です。そのため、概ね腫瘍から2-3 cm 離して病変を切除することになります。
整容性にこだわってギリギリで切除すれば断端陽性 (乳がんの取り残し) になり、乳房の変形を気にせず大きめに切除すれば、断端陽性の可能性が少なくなります。これは当然の摂理です。
一般的に断端陽性率は1割程度と報告されています。乳腺を温存するということは、必ず断端陽性のリスクを背負います
Stage II 以下に限り、①乳房温存手術+術後放射線治療 と ②乳房切除術の治療成績は同じです。
これは当然ながら、共に断端陰性 (乳がんの取り残しがない) ことが大前提になります。
断端陰性で、整容性がすぐれていれば最も理想的な術式になります。しかしこれはあくまで結果論です。
下の写真は、いずれも断端陰性の乳房温存手術後の形態です。

症例1


右A領域 Stage IIA 症例

症例2


右C領域 Stage IIA 症例

断端陽性の場合は、後日追加切除をするか、断端陽性部位に電子線の追加照射を行います。
しかしながら、もう一度追加切除というのは様々な理由で受け入れられない時があります。
その場合は、通常の放射線照射に電子線の追加照射を行います。
基本的に断端陽性の場合は、追加切除をお勧め致します。

 

②乳房切除術について

乳房再建を行なうことが前提の方、断端陽性の可能性を限りなく排除したい方、乳房が喪失しても全く構わない方にとっては、非常に合理的な術式です。基本的に乳腺を全部切除する訳ですので、放射線治療を省ける可能性が高いのもメリットになります。
根治性を確保する上で、断端陰性にすることは極めて重要な課題です。整容性を意識しすぎて根治性が劣るようでは本末転倒になります。

乳房切除といっても、乳輪・乳頭を温存する皮下乳腺全摘術、乳輪・乳頭は切除するけど皮膚を温存する皮下乳腺全摘術、乳輪・乳頭を含め腫瘍直上の皮膚をも切除する乳房切除術があります。
これらの術式について全て対応可能ですが、再建を同時進行させるのか、腫瘍がどの部位でどれぐらいの大きさなのかによってどれを選択するべきか考える必要があります。

 

乳房再建について

乳房再建には、自家組織再建 (自分の腹直筋や広背筋を使用する) と、人工乳房再建 (シリコンを用いる) とがあります。
私は、基本的に人工乳房再建を行なっています。
手術時間が短いこと、入院期間が短いこと、新たな犠牲が生じないことが最大のメリットです。
しかしながら、下垂感のある乳房を再現するのが難しいため、時には健側の乳房を吊り上げをお勧めする場合があります。

再建方法の詳細は、こちらを参照して下さい。

 

合併症について

感染、術中・術後出血、皮弁壊死、縫合不全、再建に使用する人工物の抜去、創部違和感、リンパ浮腫などの挙げればきりがないがいぐらいの合併症が起こりえます。これらは、糖尿病などの基礎疾患のある方や喫煙者の場合に確率が上がります。
しかし、合併症を恐れていれは、そもそも手術などリスクの伴う行為など何もできなくなります。
合併症を起こさないように十分注意して行うのは当然ですが、もし合併症が起こってしまった場合は、その後も真摯に取り組み回復に努める。
これが医師の仕事です。お互いの信頼関係がなければ医療は成り立ちません。

 

術前・術後の説明について

診療時間には限りがあり、そして昨今の乳がん治療には選択肢が多すぎて、すべてにおいて十分なご理解を頂いた上での治療は困難を極めます。
ご理解を頂けない部分があったり、治療の途中で疑問に思うことがあれば、必ずお聞き下さい。
『素人だから分からない』『何を聞いていいかも分からない』『すべてお任せします』『聞きたくても聞けなかった』とおっしゃる方がおられます。
信頼して頂けるのは非常にありがたいことですが、『信頼している』⇒『治療が思い通りになる』『合併症は起こらない』ではありません。

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